同じくテレビ朝日でバイトしていた頃、運動部でプロレス中継を
担当していた事があった。
戦後から80年代前半までプロレス中継は抜群の人気を誇っていた。
力道山からジャイアント馬場、アントニオ猪木の外人レスラーを
やっつける強さはそのまま日本の国の強さを表していた。
本もたくさん読んだ。尊敬するレスラーも沢山いた。
人間発電所 ブルーノ・サンマルティノ
巨人のボボ・ブラジル、噛み付き魔のブラッシー
正統派で決して反則しないビル・ロビンソン
覆面レスラーの四の字固めのデストロイヤー
同じく覆面レスラーで空中技の魔術師ミル・マスカラス
皆魅力的なレスラーたちでもうわくわくさせてくれたものだった。
俺が仕事したのはそのピークの最後の頃だった。
当時は金曜日の午後8時のゴールデンタイムに放送するほど
人気があったんだ。
俺が小学生の頃もけっこう好きで見ていてプロレスの技を喧嘩の
時に使ってみたもんだった。コブラツイストや四の字固めなんて
簡単にマスターした。
実際の中継を担当して渡されたのがなんと台本なのだ。
あわてて読んでみるとタイムスケジュールに併せ試合内容が
こまかく書いてあるのだ。
反則するタイミング、失神しかける、コーナーポストに登る、
1回目のフォール失敗、額の流血、場外乱闘、
2回目のフォールで勝利。タッグ相手が怒って乱入日本人のタッグも
乱入で大混乱で終了。
CM入り。きっちりと試合終了するのだ。
ある時はレスラー同士が時間オーバーしているとリングサイドの
スタッフがこっそり紙に書いたり合図したりして
時間を巻いたり(急がせる)するのを見た。
また合図をすると額から流血するのだ。
頭にいつも血が流せる傷を作ってそれをちょっとぶつけて
流血させるが表面だけ少し切れてるだけ、でも観客は
血だらけの姿にびっくりだ。これもやらせ。
相手が技をかけて持ち上げようとしたらこちらは少しジャンプして
協力したりするし、ロープへ投げようとしたらやられてフラフラのはず
なのにちゃんと相手の投げる行為に協力してるのがよく分かる。
とにかく子供時代にプロレスに少しでも憧れていた自分が
恥ずかしかった。
考えて見ればプロレスは日本中を興行して周るのだが
一年365日中300日も試合をするのだ。
プライドやK1だって調整に調整を重ね、年に2回から3回が限度
だろう。
その数字を見てもプロレスが真剣勝負な訳がないのだ。
高田延彦が向井亜紀と結婚した後、亜紀さんは高田が試合で
戦う度に高田の身体が心配で心配で夜も眠れず試合を見ていても
気を失いそうな位心配したそうだ。
しかしある日高田は亜紀さんに本当の事を話したらしい。
全て筋書きのあるものだと言う事を。
亜紀さんのショックは計りしれないものがあったと言う。
当たり前だ。それならそうとなぜもっと早く言ってやらなかったのか。
また高田はプライドができる前に異種格闘技戦をやると宣言した。
今度はやらせなどできない。
そして高田が選んだ相手はよりにもよって異種格闘技戦や
ウルティメイト400戦無敗のヒクソン・グレーシー。
グレーシー柔術一家の中で最強の男だ。
案の定試合はグレーシーペースであっという間に進み、
恐怖におののく高田は何度もロープを掴み逃げの一方だった。
1ラウンドで腕ひしぎ逆十字固めでKO負け。
さらに一年後再挑戦するも同じく1ラウンドで同じく腕ひしぎ逆十字固めでKO負け。
試合後高田は「勝つまで何度でも戦う」と吠えたがヒクソンは
「もう高田とはやらない。弱すぎる。もっともっと強くなれ」と言った。
俺は思った。もうプロレスの評価をこれ以上地に落とさないでくれと。
アメリカでプロレスはプロスポーツの分野には入れてもらえてない。
スポーツニュースでも扱ってもらえない。
舞台と同じランクの低いショーの扱いなのだ。
プロレスは同じスポーツ選手の中でも「モンキービジネス」と呼ばれ
蔑まされる。
アメリカで人気のあるスポーツはバスケット、フットボール、アイスホッケー、メジャーリーグとあるがこれらとプロレスが並び称される訳がない。
ちなみにアメリカで最も人気のあるスポーツは圧倒的にメジャーリーグなのだ。
逆に人気がないのがサッカーだ。
日韓ワールドカップで日本が湧いていた頃、アメリカにいても
アメリカ人は今ワールドカップをやってる事さえ知らなかった。
一時間半も試合して点が入らなかったり、引き分けたり、1-0で
勝敗が決まる試合にアメリカの国民性だと我慢ならないのだ。
サッカーは用具が少なくて済むので貧しい国に立身出世の手段として
人気があるのだ。
プライドで以前ロシアのヒョードルが元柔道選手、現プロレスラーの
小川直也を腕ひしぎ固めで
あっという間に破った事があった。
柔道のお家芸の技で柔道の門外漢のヒョードルにKOされたのだ。
むちゃくちゃ恥ずかしい。
試合が終わった後に小川は観客に向かってマイクを持って
手を振り「また頑張ります」といいハッスルハッスルポーズを
観衆とともにやった。
俺はこれはやってはいけない事だと思った。
試合の終わったリングでマイクを持って観衆に拍手を浴びるなど
負けた選手がやってはいけないことだ。
ましてヒョードル選手に対してとても失礼なことだ。
小川直也も情けないぜ。
日本のプロレス、アメリカのプロレスはもう胸を打たない。
ここまで凋落させたのは今のプロレス関係者の責任だ。
スポーツの世界でも尊敬されるプロレスになれ。
好きなスポーツは何ですか?って聞かれて
プロレスですって答えるのが恥ずかしい時代になっているんだぜ。おい