9よりの続き
中国の国境をかすめながらソビエト領内を気球で飛ぶという
計画のコースが記された地図をロッキーさんが何枚も
NYベニハナのバーのはしっこのほうのテーブルで見せてくれた。
計画実行の季節と日時の検討に入っていた。
そのときロッキーさんの手帳にはスピードボートや
車の長距離大陸横断レースの予定がびっしりだった。
俺はその手帳を見せてもらった。するとロッキーさんが
「こんな事ばっかりやって遊んでいるなんて思わないでくれよな。
俺が目だってマスコミの注目を集めればそれでベニハナレストランの
名前が世に知れていく。広告費に換算すると何十億円分の広告費に
相当するんだからな」って恥ずかしそうに言うんだ。
そしていつもアビレックスの皮のフライトジャケット(俺もたくさん持っている
最高品質の物)のポケットから出来上がったばかりの
ウイングのマークのバッジを取り出して見せてくれた。
「俺はウイングマークがほんとに好きなんだ」と言いながら
そのジャケットを脱いでジャケットの胸の部分に付けようとするんだ。
皮が分厚くてなかなか穴が開かなくてバッジをつけるのに
苦労するのだが、その一生懸命に付けようとする仕草がもう50歳を
越えているというのにまるで少年の様なのだ。
これの人がアメリカでレストラン王と呼ばれたロッキー青木なのかと
感慨深かった。
俺はこの計画のプレゼン資料を作ってきたのでそれを説明した。
英語の部分を添削してもらい逆に日本語が怪しいロッキーさんの
日本語を俺が直した。
ビクターの社長がロッキーさんと懇意だったのでまず冠スポンサーで
問題はなかった。
ビクターが出てくれば当然、大手の企業は関心を示すはずで
かつてのNY駅伝マラソン(コンテンツ参照)のような失敗は
許されない。
アメリカの広告代理店のヤング・アンド・ルビカム社やマッキャン・エリクソン社に話してみたいとロッキーさんは言った。
日本では電通、博報堂、第一企画などのいわいる広告代理店は
学生の人気企業ランキングの上位を占めまた女性にも人気が
あるが、アメリカでは全く事情が違う。
IVYリーグなどの主要大学やMBAにとっても広告代理店は最も
人気が低く、成績も最下位の者がしょうがなく行く世界と認識されている。
広告業界の企業担当の営業スタッフをアカウント・エキゼクティブ(AC)と呼ぶ。
しかし当時景気の良かった日本企業をスポンサーにつけるにはやはり
昔いた電通が一番だと思った。そしてNY駅伝マラソンのチーフに
内々で話を持ちかけてみた。
反応は大きかった。すぐにいくつかの企業に打診してみると言ってくれた。
しかしその頃、話の上辺だけ聞かされてつんぼ桟敷に置かれたアメリカの代理店がへそを曲げ始めた。
そもそもマッキャンエリクソンもヤング・アンド・ルビカムも博報堂と電通と
提携を始めていた頃だった。
その提携を根本から揺るがしかねないトラブルにやがて発展していくのだ。
続く・・・・・・・・