俺が26歳の時、最初に起業したのは貿易業だった。
ハワイからSさんが訪ねて来た。
Sさんはかねてからアメリカのパンのおおざっぱな作り方と
まずさにがまんできなかった。
それに対し日本のベーカリーのパンは生地も柔らかく味もめちゃめちゃ
うまい。
ならば日本のパンをアメリカで製造して店で売り出せば
とんでもなく売れるのではとSさんは考えた。
俺はSさんの目の付け所は素晴らしいと思った。
彼はパンの日本の大型業務用オーブンと日本のパン職人を二人連れて
苦労の末パン屋を開業した。
どうだい?アメリカで日本の美味しいパンが売れたかどうか知りたいとは
思わないかい?
これは最後に話すよ。
Sさんの今回の目的はアメリカで日本のカー用品を販売する事だった。
車社会のアメリカでありながら実はカー用品やカーアクセサリーが
アメリカにはほとんど存在しないのだ。
幅のあるでっかいバックミラー、シガーソケットに差し込むランプ及び
様々なアクセサリー、
三角停止表示板、ダッシュボードマット、シフトノブ、ステアリングカバー、
室内のイルミネーション、クラクションの音色交換ユニット、ホイールなど
様々なものを売るのだ。
俺はたまたま日本国内で仕入れルートを知っていたので
この仕事に興味を持ち意気投合してSさんと共同で仕事をすることになった。
確かにアメリカにはカー用品のニーズは必ずあると俺も思った。
そしてそれらの用品のメーカーにコンタクトして200個づつの
サンプルを購入した。
そしてそれをラスベガスのコンベンションセンターで毎年開催される
モーターショーでブースを借りて展示することにした。
ダンボール箱で30箱にはなった。
初めてラスベガスに降り立った時に感動したのはこの街が
周りが砂漠なのに忽然とそこだけ都市が存在する事だ。
夜のイルミネーションの凄まじい。アメリカのパワーと
アメリカのエンタテインメントの頂点が垣間見られる街だ。
2月だったので空気の乾燥がハンパじゃない。
ドアノブや金属に触った時の静電気のスパークが凄いんだ。
スパークはフラッシュのように光るし、感電のショックは
腕まで痺れて痛く時にはしゃがみこんでしまうほどだ。
音はパーンパーンとまるで爆竹のようだ。
砂漠の乾燥はまさに驚異だった。
展示ブースは幅6m×奥行2m位だった。ここにメーカーから借りてきた
カー用品のデモビデオを映写した。
商品サンプルを机に並べ、パンフレットを積んだ。
このコンベンションは来客数はかなり多いのでブースも
大勢の人で賑わった。
展示もするし販売もするのだ。
面白い事が分かった。白人は一瞥するだけで興味をとくだん示さないのだ。そしてアジア系や黒人の連中がすごく興味を持ってくるのだ。
それで俺は思いだした。
フィリピンで見たジムニーの事を。
フィリピンではジープをキンキラキンに飾りつけたタクシーが
山ほど走っているのだ。
派手で人の目を引くほど偉いと思っているんだ。
その文化がアジア系の人間にはあるのだ。
特に売れていくのがシガーライターソケットを使った室内の電飾や
アクセサリーだ。
もう次から次へ飛ぶように売れていく。嬉しくてたまらなかった。
もう在庫がなくなりそう担った頃。
思いもよらない大変な事が起きたのだ。
俺がアメリカビジネスで最初に経験した大失敗だった。
続く・・・・・・・・・