国際電話ビジネスを始めて1年たった。、
この電話技術業界の業界雑誌を10冊以上定期購入していた。
面白い雑誌もあれば義務で読む雑誌もある。
社内でまわし読みしていた。
とにかくこの業界は技術革新が早くついて行くのは大変だった。
その中に目新しい記事があった。
それはインボイス(明細)発行の新しいソフトについて書かれたものだった。
それまでは顧客に発行する使用明細書は全て
ニューヨークオフィスでプリンターでプリントアウトしていた。
約1000人くらいの顧客の毎日の電話明細だ。
かけた国、相手先電話番号、通話時間、時間帯別の料金
通話ごとの料金、それらが一人平均数十件それを一ケ月分
合計してこれこれのクレジットカードから引き落としますという
内容の通知。
だから毎月ダンボール箱2箱の分量になっていた。
毎月毎月$500トナーが二本無くなる。
普通なら忙しい会社でもトナー1本で半年は持つだろう。
またアメリカのコピー用紙は日本のA4よりもやや小さく
そして分厚いのだ。これを俺が東京へ出張の時に手荷物で
持って行くかOCS(宅急便)で発送する。
そのソフトはインボイスをめちゃめちゃ小さくに圧縮して
インターネットの通信回線で瞬時に送るのだが途中の
回線でたとえハックされてもデータが完璧な暗号化されて
いるために一切の解読が不可能というものだった。
実は外資系企業は俺の会社の電話サービスに加入するに
あたり電話かけ先の番号が外部に漏れる事を極端に
恐れるのだ。完全なる企業秘密なのだ。
ライバル企業にそれが察知されると番号から調べがつき
動きが筒抜けになるからだ。
その点、この技術は専用線でなく公衆のインターネット回線でも
データが外部で読まれる事は無い。
その会社はマイアミにあった。俺はすぐにテストを行いたいと担当の
アレックスに電話を入れた。
詳細を打ち合わせた後、すぐにマイアミから小さなアダプターソケットみたいなものが送られてきた。まるで漏斗みたいな形をしている。
真ん中に丸いレンズがついていて中に小さなLSIチップが入っている。
未来のSFの部品みたいに見えた。
これを持って俺は東京へ飛んだ。このテストは俺が自分で試してみたかったのだ。
空港から深夜の東京オフィスへ直行した。スタッフは帰宅していて
俺だけだった。
すぐにPCを立ち上げマイアミのアレックスに電話を入れた。
彼に電話で使用方法を聞きながら設定を進めていった。
俺は大学の専攻こそ機械工学だが決してエンジニアではない。
こんな畑違いの仕事を英語で電話でやりとりしながらやるのは
楽ではないが楽しくもある。
PCで普段のデータの重さと同じ物を圧縮をかけマイアミから
ネットを使い発送してもらった。
電話口でアレックスがクリックし今送ったと言った。
数秒して東京の俺のPCにデータが着信したと表示された。
俺は当時、まだ世間の人は誰もまだインターネットなど聞いた事も
無いころだった。
俺は本当に感激した。ついに技術はここまですすんだのかと。
アメリカ側はコピューサーブという会社の回線を使い、日本側は
当時始まったばかりのニフティだった。
そしてそのデータを解凍するために解凍ソフトをドラッグ・アンド・ドロップ
した瞬間、画面に上から一月分の通話データが一斉に見えた。
俺は感動に震えた。こいつはすごい技術だ。
俺は電話でアレックスに言った。「マーベラス!アイ・インプレスド・ディス。ユー・ガッタ・ディール」(すごいよこれは!驚いた、取引するぜ)
NYでアレックスとすぐに落ち合って契約することになった。
契約書の雛型をまたネットで送らせてみた。全部で40ページだが
数秒で届いた。
当時の日本のアナログ回線の通信速度から言っても驚異だった。
なんと空港からオフィスに着いて夢中でマイアミと話していたら
もう朝の4時だった。
そのままオフィスに泊まって仮眠して翌朝出勤してきたスタッフたちに
説明した。皆驚きだった。
こんな経験を何百も何度も繰り返しながらエボルーション(進化)を
とげていった。
会社も、そして俺も。
KDDとの戦いは本格化してきた。
その時、俺は幕末の長州藩を思いだしていた。
倒幕を旗印にしていた長州藩が御所の門まで行きながら
失敗するいわいる「禁門の変」だ。
それの責任を取らせる形で幕府は第一次長州征伐に乗り出す。
しかし長州軍は大村益次郎の指揮下洋式兵術で戦い
さらに有能な人材は身分の上下関係なく採用していった。
幕府軍と長州軍の差は幕府は古い体制を守るために戦い
長州は時代を変えようと戦っていたのだ。
モチベーションが全くちがうのだ。
この世界でもまれな国際電話高額国日本に風穴をあけ旧態依然価格
を破壊するのがこの俺の目的だった。
敵は巨人KDDだけ。
それ以下の会社を狙うのは全て弱いものいじめになる。
そんなに考えていた。