ジャパンマネーによるマンハッタンのビル買収のためのリサーチを
俺は始めた。人材紹介業はスタッフもいるので俺はしばらく本業を
離れる事にする。
マンハッタン中のオフィスビルの物件を扱っている不動産屋のリストを片手に片っ端から電話をした。
それも全て社長宛てにだ。さすがにでかい会社だと電話応対した人間、社長秘書、
社長と最低3回は同じ事を話さなくてはならない。
口がだんだん酸っぱくなってくる。さんざん話した後でも「うちは建設だけ」とか
「テナント仲介だけ」とか「デベロッパーだけ」と言われて終わりってケースが
多くてがっかりだ。
連日朝から晩まで電話ばっかりだ。この頃はかなり英語力も伸びるし夜眠りに
ついても英語の夢を見る。
いつかKDDのオペレーターの女性と話した時に英語の凄まじい集中合宿訓練を
数ケ月受けて苦しみ、夜見る夢は全て英語だったと言うのを思いだした。
語学習得は声に出して話す事と反復とはよく言ったものだ。
俺は勉強しようとしてやったのではなかったが、まあ予想外の収穫はあった。
そして何よりも度胸がつく。ダメでも次、次とかけまくるのだ。
やがて電話攻勢は午前中になり午後は実際にでかけてのアポになった。
アポを取った相手の名前を見るとだんだんどこ系の人かが見当がつくようになる。
俺のアポのやり方はまず本命の大事な所はあせっていてもいきなりは
行かない。はやる心をおさえてどうでもいいところへアポをとり
それをリハーサルとさせてもらう。
なにしろこちらは不動産の全くの門外漢の素人なのだ。
いくら事前に勉強しても実践に勝る勉強はない。
相手と話せば恥もかくしバカにもされる。お前何しに来たんだみたいな
顔をされる。がしかし基本知識の65%はこちらにいただきだ。
会話に出てきた分からない単語を片っ端からメモを取る。
そして後からそれをいちいち聞いていく。
相手は「そんな事も知らないで来たのか」って顔で唖然とする。
軽蔑の表情も見てとれるがそんなのは「蛙の面に小便」だ。
これを3件こなして頭に叩き込み、即席のプロの振りをして
いよいよ本命のアポだ。
会話が進んだところで俺が質問を相手に浴びせる。「するとスクエアフットあたり幾ら?」
「モゲージは?」「ランドマークは大丈夫ですか?」「デポジットの条件は?」
「フィジビリティー・スタディーの結果は?」などちょっとした上辺だけの不動産マンに
なりきり少しは話が通じ弾む。
こうなると向こうにとっては大事なお客さんだ。
冷やかしではなく本気だと思って大事にしてくれる。
やがて食事したりもする。
俺が本命とした不動産会社のほとんどがユダヤ系だった。よその会社があそこは
やめた方がいいとか「ファッキング・ジュー」なんて軽蔑するが俺はなぜか
ユダヤ人がきらいでなかった。いや好きだった。
これは後の電話ビジネスにも言えた。
アポを取った時、相手の名前でユダヤ系か大体分かる。なんとかなんとかマンと最後に
ついたり最後に「MANN」と「N」が重なるのはユダヤ系だ。
中には名前を変えてしまっている人も大勢いるが顔を見ても鍵鼻で分かる事もある。
しかし彼らは優秀だ。ここマンハッタンでも絶大な力を持っている。
金融、広告、テレビ、映画、雑誌などは彼ら無しでは動かない。
ある社長と食事している時、雑談で聞いた。彼はかなりの年配だったが
彼ぐらいになると取引の交渉はオフィスではしない。
ヤンキース・スタジアムだったりマディソン・スクエア・ガーデンや
の試合前の観客席でしたりするのだと言う。
それも数百億円単位の物件の商談だよ。
うわーすごいなって俺は思ったよ。
まだ20代だった俺はまだまだ俺はひょっこだと思った。
そしてその商談に連れて言ってくれたんだ。
それはニュージャージーの夜の競馬場だった。
ただしかなり離れたところで見てるだけだが
迫力はあったな。感動だった。
そんなこんなで交渉できそうな不動産屋を2軒見つけ、
物件を5件挙げた。
それぞれについて英語のレポートはそろえたがこれを
簡単に翻訳しなければならなかった。
これがまた膨大な作業だった。
まあ、あの松尾さんのためだもんな。しょうがない。
だがこんな経験を繰り返していると自分が成長しているのが
実感できてくる。
続く・・・・・・・・・・