イタリアンはやっぱりリトルイタリーで味わうのが俺は好きだ。
となりのエリアのチャイナタウンの勢力におされ、リトルイタリーの
有名店は軒並みSOHOへ引越ししてしまった。
それでも家庭的なイタリアンレストランはまだまだ健在だ。
今ごろの季節、週末の夜から深夜まで語り合ってくだをまくのには
最高だ。
かつてNYビジネスマンの間では接待に使う店でグレードが別けられて
いた事があった。どの国のレストランに招待されているかで
相手の自分への評価が分かると言うのだ。
フレンチレストランが最高レベル、イタリアンがセカンドレベル、チャイニーズと
日本料理がサードレベル、インドがその次、最悪はタイやベトナム料理だ。
しかし俺の印象だとこの序列は今では完全に崩れていると思う。
リトルイタリーの街は南北にとにかく長く続くのだ。見ものはフェスティバルだ。
日本で言う露店が延々と先の先まで連続する。
映画ゴッドファーザーやジャン・レノ主演の「レオン」でもしばしば登場する。
レストランのひとつ「ルーナ」を俺は遂に探し出した。
テーブル席が20位のどってことないレストランだが、ゴッドファーザーパート1で
若き青年マイケル・コルレオーネ(アル・パチーノ)が、手を結ぼうと和解の
会食に誘ってきた敵対勢力幹部と汚職警官の2人を店内で撃ち殺す
シーンに使われたレストランだ。
このシーンの迫力は筆舌に尽くしがたい。
このシーンは映画の中では生まれて初めて人を殺す組織の跡取の宿命に
悩むも遂には父の跡目をついでドンとなるべく大きく成長する経験として
このシーンがある。
「あのテーブルが使われたのよ」と教えてくれた。俺はそのテーブルが空くのを
待ちそのテーブルのマイケルが座った椅子に腰を降ろした。
ニューヨークマフィアは、大きく5大ファミリーに分けられる。
ギャンブル、ショービジネス、高利貸し、建設、交易、売春、などで大きな収益を
上げている。
「ここ15年間で勢力を伸ばして来たチャイニーズ・マフィアやロシアン・マフィアも、
本家の老舗「イタリア・マフィア」の力の足元にも及ばない」。
最近も、ガンビーノ・ファミリーのドン、ジョン・ゴッティのファミリーが造船業界支配に
絡んで起訴されるなどその活動は表のストレートビジネスにまで進出している。
またイタリア系の著名人の活躍も著しい。俺が大ファンだったニューヨーク州知事の
マリオ・クオモ。彼の凄腕の政治手腕は彼の目標の延長線上には合衆国大統領が
見えていたはずだ。
俺は知人にそれを聞いてみたが「いやー無理だな、彼は立候補しないよ。
自分がイタリア系なのを心の髄まで思い知っているからな」と言った。
レーガン政権時代の1980年代初めに、ようやくマフィアの大量検挙という対決路線を打ち出し、指揮したのが、若き検事だったイタリア系のルドルフ・ジュリアーニ前ニューヨーク市長だった。 彼もまた大統領を目指すかに見えたが結局リタイアしてしまった。
実は前にも書いたがアメリカにはイタリア系アメリカ人に対する凄まじい差別意識が
あるのを日本人はまだ知らない。
大安売りのアダルトビデオでもイタリア人女性のものばかりだ。
移民真っ盛りだった100年前、警察もリトルイタリーには管轄してもらえなかった
歴史があった。そこでイタリア系だけで自警団を組織したのが「コーザ・ノストラ」
いわゆるマフィアの始まりだ。
日本の江戸時代の火附盗賊改の「鬼平」事、長谷川平蔵ももともとは手のつけられない
悪だったのを取り立てたのだ。
このマフィアもやくざも必要悪であり警察機能と裁判所機能を実は併せ持っているのだ。
ある日リトルイタリーで副社長と打合せを兼ねて食事をしていたら
酔った男が店で暴れだし、なだめる店員のネクタイを掴んで頭をテーブルに
叩きつけるなどして手がつけられなくなった。
しかし5分もすると一発でそれらしい男達3人が現れその酔っ払いの脇に
他の客に見えないように一発食らわしたのを俺は見逃さなかった。
おとなしくさせて介抱するようにして静かに店の外に運びだした。
彼らの左脇は明らかに拳銃の膨らみが見てとれた。
完全なるマフィアの仕事を俺は初めて見た。
それをロッキー青木さんに話したらベニハナはこのマフィアのサービスを
断り随分痛い思いをしたと言っていた。
マフィアは用心棒の他にテーブルクロスのクリーニング、生ゴミの回収、
食肉の卸など行うのだ。
このみかじめに従わないといかにもギャングの出で立ちの男達が店に
客として訪れ大声で騒ぎ、他の客にちょっかいを出しいやがらせをする。
店の玄関に腐ったゴミをぶちまけたりするのだ。
マンハッタンではホットドックスタンドが各ブロックごとにきちんと整然と
割り振られたように営業しているがこれは全てマフィアの采配だ。
ラスベガスが巨大な手持ちの金が行き交う街であるのに全米屈指の
安全な街なのはマフィアが徹底的に犯罪をおさえ込んでいるからだ。
街のありとあらゆるところに監視カメラがあり強盗やひったくりがあれば
警察よりも現場に駆けつけあっという間に捕まえてしまう。
もっともきつい罰はギャンブルのイカサマだ。
犯人へのマフィアの罰はきつい。指を折られたり常習犯だと金槌で
手を砕かれたりする。
驚異的な記憶力でカードを全て覚え勝負をするのも実は禁止されているのだ。
これも彼らにとってはイカサマなのだ。
俺の横で記念写真を撮ろうとした日本人があっという間に取り押さえられた。
カジノでの写真撮影は厳禁なのだ。
なぜか?会社の経理担当者が会社の金を使い込んでくれるのをカジノは
歓迎するのだ。そんなお客の悪事を暴く証拠をつかませないようにするのは
マフィアのサービスでもあるのだ。
マンハッタンではマフィアの連中をピジョン・マン(鳩男)と揶揄する事がある。
胸を突き出して肩をいからせて首を前後に揺すって歩く姿が鳩に似ているからだ。
これはよくテレビのコメディにも使われるネタだ。
寂れ観光客からも相手にされなくなってきた「リトルイタリー」。
それでも俺がこの街を好きなのはなぜなんだろう。