従兄弟の祐介がオフィスに戻るなりまるで気持ちを爆発させるように興奮して
堰を切ったように話しはじめた。
オフィスのビルの一階はグランドセントラルステーションの斜め前にあるのだが
その回転ドアを通ってビルに入る瞬間、同じ回転ドアで外に出ようとしていた
男がいた。そしてその男と視線が合い回転する間つかの間見つめあったと言うのだ。
アル・パシーノだった。
ゴッドファーザーでマイケル・コルレオーネのイタリアンレストランでの父の敵と
警察署長を和解する振りをして隠し持っていた拳銃でいきなり射殺するシーンの
演技は背中から凍り水を入れられた位の衝撃だった。
「狼たちの午後」「スカーフェイス」「カリートへの道」「セント・オブ・ウーマン」「ヒート」
そしてシェイクスピアの「ベニスの商人」で円熟の極みを見せ付けて来る。
俺は実は密かに「ヒート」が一番好きなのだが。
さらに半年経ったある日、祐介がまた興奮して再び話す。
今度はオフィスのこのビルのエレベーターで逢ったと言うのだ。
祐介は一人で乗っていたエレベーターが途中階で止まりドアが開いた。
しかしそこには誰もいない。しばらくして閉まり始めまさに閉じる瞬間に
誰かががっしりとした腕を差し込んで扉は開き紺色のスーツとベージュのコートで
決めた男が乗り込んで来た。
なんと再びアル・パシーノだった。
まさにあの大スターのアル・パシーノとエレベーターで二人きりになったのだ。
頭に「何か話かけたい、何か話しかけねば」と考えて言葉を選んでいるうちに
エレベーターは地上に到着してしまいアル・パシーノは去って行ってしまった。
断っておくが祐介の英語力はかなりのものでお墨付きである。
度胸もある。しかしアル・パシーノの熱狂的な長年のファンである事が
かえって躊躇させてしまった。
マンハッタンでのニアミスはシンディー・クロフォード、ゴーストバスターズ2の
撮影中のシガニー・ウィーバーと続く。
学生時代に観た「ゴッドファーザー」のアル・パシーノの実物がここに・・・・
夢が現実になる街、ニューヨーク