とにかく増えて増えて困るのがビジネス鞄、アタッシュケースなのだ。
種類は大きく分けて二種類ある。伝統的な映画「ロシアより愛をこめて」で
登場するような革張りのハードケースでケース開ける時、
留め金がバネのバーンと弾けるような音がする。
俺はこの音が「戦闘開始」を告げるようでとても好きなサウンドだ。
もうひとつはサムソナイトに代表される炭素繊維の超ハードケースと
ゼロに代表されるジュラルミンやアルミニュウム製の近代的アタッシュケースだ。
日本のサラリーマンが良く使う柔らかい素材のくにゃくにゃバックはほとんど
見かけない。
実は鞄にもスペースの狭さが影響しているのではないかと考える。
アタッシュはどう考えても横にして開かなければならない。机の横や
下に置いて必要な書類だけを取り出すのは無理なのだ。
例外はパイロットケース。アタッシュの上だけぱかっと開くのだ。
狭いコクピットで航路図が簡単に取り出せるようになっている。
日本ではケースをあけるのにはオフィスでも路上でもアタッシュでは
一苦労なのだ。
ニューヨークでハードケースが主流なのはもう一つ理由がある。
ナイフを防いだり振り回せば簡単な武器にもなるからだ。
超ハードケースならばまずナイフは通らない。
さらにちょっとしたカフェでもアタッシュを開けば小型オフィスが登場する。
このアタッシュの分厚さも実は面白い現象がある。
オフィスからオフィスを渡り歩くセールマンは「スーツケース?」って
言うぐらいのでかい鞄を持ち歩く。キャスターで思いパンフレットや
マニュアルを運んでいるものもいる。
しかし会社の中で偉くなればなるほど鞄の「厚さ」が薄くなるのだ。
取締役や役員クラスだと4センチ位しかないものもある。
もう最重要書類の契約書位をポンと入れてるだけなのだ。
ロムジンやヘリコプターから悠然と降りてくるエグゼクティブに
電話帳のような鞄を持つものはいない。
日本人のエグゼクティブが憧れているのにニューヨークの
エグゼクティブでは見向きもされないブランドがある。
カルティエの鞄がある。
爪がちょっと引っ掻いただけでみごとなスクラッチ(傷)が残るからだ。
しかし最近、このカルティエの鞄をヤスリで傷を付けまくってる
鞄を持っている男を見た。もう多分開き直って鞄全体をヤスリか
千枚通しでこすりまくったのだろう。
日本人は刀を武士の魂と呼び、野球選手はバットやクラブを事のほか
大切に扱う。道具に敬意をはらい跨いだりしない。
しかしアメリカ人は実にラフだ。アンクアーロンでさえ打席が終わって
バットを無造作に放り投げる。
一流のシェフでも包丁は安いものを使い雑に扱う者も多い。
鞄を椅子代わりにしたり足をのせたりもする。道具は道具なのだ。
俺はいい鞄があるとすぐに欲しくなり買ってしまうのだ。
街を歩いていても気になるのは鞄ばかり。
部屋には鞄屋さんの倉庫みたいになったりもする。
ワールドトレードセンターの一角にあったセンチュリーショップに
あった鞄屋は大のお気に入りでいくつもここで買って帰ったものだ。
そしていつも「また鞄買ったのですか?」って笑いものになる。
鞄、日米の差、ポジションの差、文化や土地柄の差にいちいち感動さ。