高校時代の友人が俺の影響を受けて船を購入する事にした。
最初に購入したのはモーターボートのベイライナーという船だった。
しかしモーターボート熱に浮かれたかれは次に狙ったのは
バートラムのボートだった。
バートラムはモーターボートのベンツと呼ばれるほど最高品質の
船だ。それも彼は50フィート(F)の大きさを狙っていた。
普通、船舶検査(車検みたいなもの)は45Fが限度だ。それを越える船を所持しようとすると
小型船舶の枠を超え、船長や機関士、航海士、等を乗りこませ、制服も着用しなければ
ならなくなるし船舶検査の期間も短くなり面倒この上ない。
しかし50Fなどのプレジャーボートを持っている人間など日本ではいなかった。
ここで日本の船舶検査方法の条文を緻密に読んだ結果、この50Fの船を合格させる
ひとつの方法が見えてきた。
船の長さは外側から計測する時、先端にあるアンカー(おもり)とウインチを収納するスペースがあるのだがそこの長さは船の全長の長さの規定に含まれないのだ。
ここに目をつけたのだ。
我々はマイアミに飛びバートラム本社を訪ねた。担当者はロジャー・ハンセンという男だった。
50Fの船はほんとにでかい。小さなビルくらいのでかさの船だ。キャビンのリビングは
15畳ほど、エアコンが完備しておりシステムキッチンだ。
オーブンレンジ、大型テレビ、ビデオ、GEの大型冷蔵庫、トイレとバスルームはクルー用とオーナー用とふたつずつある。
オーナーの部屋は完全なるダブルベッド、クローゼットもある。
こんな豪華な船を俺ははじめてみた。
そのほとんどが注文装備なのだ。カーペットや壁紙も選べる。
操縦系統も最新の装備だ。レーダーや魚群探知機、ロマンロラン、サーチライトなど
夜間航行の装備も充実している。
テスト航行をする事になった。マイアミの港を早朝に出港してバハマまで向かう。
外洋にでるまでの間、マイアミ湾の中を航行するとき、この美しい街並みはなんだと
思った。
日本ではいくらヨットハーバーとはいいながら回りは工場地帯や汚れた海、などだが
こちらは青い海、白いカモメが舞い、船の横をイルカが併走してくる。
抜けるような青い空なのに遠くに300m位の円盤みたいな雲がありなんとそこの下だけ
雨が降っているのが分かる。まるでマンガみたいだ。
マイアミの海岸線近くにあるホテルは50~60年代に建てられたホテルが多く
やや老朽化がめだつ。今はリニューアルがブームだ。
バハマに近づくにつれ水の透明度が上がる。操縦を代わってもらって操船してみた。
目をまともに開けていられないほどの日の眩しさだ。
バートラムの波に対する走破性、安定性は驚愕の一言だった。
何もかもがベイライナーと大違いなのだ。
ベイライナーはもともとアメリカでは船上のパーティー用の船と呼ばれているらしい。
知らなかった。
マイアミからバハマまで船を操船して行ける幸福を俺はかみしめたなあ。
まさに天国だ。友人は日光が苦手なので涼しい室内でくつろいでいる。
港に入るとまるで船が空中に浮いているみたいに透明なんだ。
船を舫い下船すると子供達がフルーツを手に一斉に売り込みにくる。
何度か大波に向けて直角にあててみたがビクともしない。
とにかく船体がきしまないのだ。
アンカーのウインチも強力だ。まるで大型船だ。
ロジャーとこのアンカースペースを1mまで拡げてくれるようにできるか聞いた。
アンカースペースを拡げて長さを短く計測してもらい合格させたいのだ。
アメリカで船を購入する場合、ニューヨークに日本の運輸省の事務所があり
そこがマイアミへ出張して検査官が検査に出向いてくれる。
さあこちらの思惑どおりにすすむだろうか。
続く・・・・・