80×50センチ位のうすい鞄を開けて開けるとズラリと時計が並ぶ。
鞄を支える足も出てくる。あっという間に時計屋の開店だ。
開店まで30秒ほどだ。この場所はなんと五番街ティファニー前の
路上だ。ブランド物の時計が並んでいるが値段がひとつ20ドル位。
めちゃめちゃ安い。だが一目見てもちろん全てニセモノ。
でもこれがけっこう売れているのだ。
5番外と57ストリートのこの交差点あたりは世界一家賃が高い場所だ。
世界有数の場所に家賃ゼロで出店できる技は確かにすごい。
たまに警官が近づいてくると10秒もしないで鞄をたたみ、足早に立ち去ってしまう。
その早業は見ていてほんとに楽しい。
ミッドタウンやSOHOにも時計の鞄の露店売りはあるがこちらはブランド物の
ニセモノではなくオリジナル商品だ。
1個20ドル位のものだが実はこれらの時計のデザインがばかにできないのだ。
中には感心してため息が出るくらいの素晴らしいものもある。
但しおしいのはムーブメントがちゃちいので3ケ月位で壊れてしまうのだ。
俺はそれらの時計を持っているが壊れてもデザインがおしくてなかなか
捨てられないのだ。
オフィス街を歩いていると声をかけてくるロングコートの男がいる。
なんだいって答えるとコートを拡げると内側にゴールドの数多くの
アクセサリーがぶら下がっている。
そして丁寧に値札がついている。なぜこんな風にするかというと
警察が来たらあっという間にコートを閉じて人ごみにまぎれるためだ。
車でマンハッタンを運転していても信号待ちでいきなり勝手に窓に洗剤を拭きかけ
モップで掃除を始める。
掃除するなって言っても聞く耳持たない。
「ユー・ドーン・グッド・ジョブ。ゲット・ロスト」
(あーよくやったよ、消えてくれ)そう言って結局はやはり1ドル上げてしまう。
マンハッタンのひったくりは黒人の若い奴がよくやる。スニカーを履いて
屈伸運動して準備運動して肩かけしてる女性のハンドバックをひったくる。
いったんひったくったら俊足で人ごみを駆け抜ける。
連れの男性などが追いかけるが普通の革靴では到底追いつけない。
いつも通勤路で見かける盲目の障害者がものごいで紙コップを通行人に差出してくる。
アメリカ人はけっこうものごいにもわりとお金を入れる人は多い。
でも仕事が終わりスタスタと歩いて帰る姿を見た時、あーこいつ見えてるって確信したよ。
仕事を済ませ深夜のオフィス街を歩いていると小さなスーツケースを持って
ビニールの金ヅチでなぐるとピコピコ音がするやつで自分の頭を殴って
ピコピコ言わせながら「ワン・ダラー、ワン・ダラー」って言って歩いてるんだ。
身なりはスーツを着ている。
それはそのおもちゃを1ドルで売って歩いていたのだ。
俺も面白くて買ってみた。音がとても面白くて自分の頭をピコピコ殴りながら
歩いた。なぜか仕事に疲れた気持ちがちょっとしたオモチャで遊ぶことで
子供に返ったみたいに新鮮だった。
また家に子供がいるやつはちょっとした土産になるのだろう。
仕事に夢中で家族の相手もしてやれないから。
見ていると深夜の残業帰りのビジネスマンに売れているのだ。
そして次にそいつに会ったときは携帯電話の1ドルおもちゃだった。
俺はこれも買ってしまった。部屋で待ってる家族もいないのに。
でもガチガチの弱肉強食のこのマンハッタンでもほっと息を抜ける
出来事があるんだなって思った。
ふとビルを見上げる。すごい街だ。