1969年 ダスティ・ホフマン ジョン・ボイド
英国出身のジョン・シュレシンジャー監督の作品。
アメリカン・ニューシネマの先駆けとなったこの作品で、
イギリス人の目でアメリカのすさんだ病巣を
実に痛烈な皮肉を込めて描いている。
テキサスの食堂で働いていたジョン・ボイドは憧れのカーボーイルックに身を固め
遂に憧れの大都会ニューヨークへ長距離バスで向かっていた。
カーボーイはニューヨークの女性にモテるって完全に勘違いをしている。
鍛え上げたマッチョな自慢の肉体で金持ち女を相手に身体を売って金を稼ぐ
ジゴロで成功してやろうとする夢があった。
Everybody's Talkin'...「うわさの男」の曲で始まる60年代末のNY。
ここでの「うわさの男」のテーマ曲は
あまりにも有名な名曲。
アメリカの広い大地を連想させるいい唄だ。
ラジオ片手にガムを噛みカーボーイハットを被りながらブーツを磨く姿は
アメリカのいなかっぺを極端に表現していて面白い。
しかし憧れのニューヨークはジョンの期待を裏切り都会の厳しさを思い知る事になる。
しかし、やっとそれらしい中年女をつかまえたが金を請求すると豹変され逆に
お金を渡すはめに。
もうドン底って時に、バーで知り合った小汚い男リコ(ダスティン・ホフマン)と意気投合した。
リコは足が不自由で、胸が悪いらしく変な咳をいつもしている。
金を払う女を見つけるに紹介者を通すんだよとリコに紹介された男は
気色悪い福音師だった。そしてジョンはリコに僅かな持ち金全部を
紹介料として騙し取られてしまう。
リコに騙されたと気付いたジョンはリコをニューヨーク中探し回るが無駄な努力だった。
ついにホテル代を払えなくなり追い出される。
映画館で近づいてきた若いホモを脅し金をふんだくろうとするが怯える相手に
やっぱりそれ以上はできなかった。
そんなある日、偶然レストランにいたリコを見つけた。
ジョンはリコを叩きのめそうとしたがリコは詫びを入れ立て板に水の一流の言い訳を並べる。
しかしリコはほとんど一銭も持っていない。
根がやっぱり優しいジョンは「もういいよ、消えろ」とリコを放り投げて行こうとする。
寂しく去って行こうとするジョン。そんな後姿に今度はリコが呼びとめる。
泊めてやるからと自分の部屋へ連れて行く。
そこは廃墟となったビルの一室だった。
電気はきていないのに冷蔵庫があるのはどうしてって聞くと「ねずみに食われないだろ」
って答える。
「俺のことをラッツォ(ドブねずみ)と呼ぶな、俺の名はエンリコ・サルバドーレ・リゾーだ。
リコと呼べ!」 リコは叫ぶ。
「ニューヨークじゃカーボーイは通用しない。せいぜいオカマさ!」
「じゃ、ジョン・ウェインはオカマか?」
「俺はフロリダへ行くことになってるんだ」とリコが夢を語る。
そんな二人の奇妙な共同生活が始まった。
リコは盗みの達人だ。果物を店員の目を盗み万引きする。
タクシー待ちの客に「ごみがついてますよ」と言いながら肩をたたき、
ポケットから見事な腕前で財布をスリ取る。
ジョーは女をあさるがジョン・バックが女性専用のホテルに仕事を求めて入って行様子を見ながらラッツォはフロリダにいる自分の夢を見る。
このシーンが実にまた泣ける。
海岸に佇むリコ、手をあげて向こうから駆けて来るジョン。
そして不自由な足がすっかり治っていて二人で砂浜を思いっきり駆ける。
セクシーな女性が大勢佇むプールでビーチチェアで寝そべる。
女性達を集めてバクチ三昧。そしてご馳走を美女達に自分の味見のあと大判振る舞い。
リコの夢がチンケでつまらない夢だが何かとてもリコが可愛い。
そしてここでリコの健康な身体への憧れが取るように分かる瞬間だ。
ここでの音楽も実に愉快で最高だ。
大好きなシーンだ。
しかしジョンの仕事は失敗しホテルを叩き出されそしてリコの夢も覚める。
マンハッタンは寒さがさらに増し部屋のマグカップへ入れたスープさえ
凍ってしまい食べられない。
もう収入の手立てはない。最後の財産であるジョンのラジオを売った。
この時の「オレンジジュース」と唄う唄がめちゃ好きなんだ。
残念な事にサウンドトラックCDには入っていないんだ。
二人で凍えるタイムズ・スクエアを歩く。二人の足元のアップ。
リコの不自由な足はヒョコヒョコしている。
二人が横切るビルの上には「毎晩ステーキを食べましょう」と言う看板が。
道路からは悲しげに蒸気が吹き出てるおなじみのマンハッタンのシーン。
この時の音楽が最高だ。凄すぎ!
リコの父親の墓参りをするシーンがある。
「俺の父親は靴磨きで靴墨を吸い込みすぎて死んだんだ。
学がなくて自分の名前さえ書けなかった。
墓石にはバツでも書いとけば良かったんだ。」といい。
他人の墓に捧げてある花を取って父親の墓の前に放り投げる。
あいかわらず商売にならない。一方、リコはフロリダへ行くことを夢見ていた。
しかし、胸を患っているリコの咳はますますひどくなる。
遂にはジョンは自分の血を売って少しばかりの金を作る。
薬とそして少しの食べ物とミルクをリコに食べさせてやる。
するとリコが怒った。「どうして買った。盗めばいいのに!」
パーティーに送り届けジョンの客相手に交渉をまとめた後
熱でふらつき階段を転げ落ちてしまうリコ。
見事金を手にして戻ったジョンにリコは言う。
「俺はもう、歩けないんだ」
リコはフロリダへ連れて行ってくれとジョーにせがんだ。
ジョーはリコをどうしてもフロリダへ連れて行ってやりたかった。
ジョーがゲーム場で会った中年のホモとホテルへ。
そこで、男を脅し金を奪った。
フロリダ行きのバスにリコを乗せるジョー。
リコは相当具合が悪化していた。
フロリダの夢を見るリコ。
リコが泣いていた。「どうした」
I'm wet. I wet my pants.
「漏らしてしまった」と嘆く。
途中でシャツとズボンを買い、リコにはかせるジョー。
ジョンもそこでカーボーイの服を捨ててしまい半袖シャツに着替える。
このシーンは忌まわしい今までの過去と決別するような印象を与えてくれる。
バスはフロリダへまっしぐらに進む。
バスの後部座席で会話をする二人。
リコはかなり弱っている。
ふとリコが長く話しこんで「俺は今度はまじめに働くつもりだ」と将来の夢を語る。
そしてジョンを見ると目を開けたまま窓にもたれかかり返事が無い。
リコはマイアミがもう目の前というところで眠ったように息絶えていた。
ジョーはリコを優しく抱いたままフロリダに向かうのだった。
二人を写す窓の外からのショット。二人の座っている窓にはフロリダの
パームツリーが写っている。
実に感動的なそして悲しいエンディングだ。
この時の音楽も最高だ。
007で有名なジョン・バリーの音楽は秀逸しているぜ。
リコを演じたダスティン・ホフマンの会心の演技だ。
この年のアカデミー主演男優賞に彼とジョン・ボイトがノミネートされた。
受賞は逃したものの、アカデミー作品、監督、脚色の3部門に輝き、
ジョン・シュレシンジャーの名は映画界に轟いた。
76年に再びダスティン・ホフマンを主役にした「マラソンマン」を完成させる。
名優ローレンス・オリビエがネオナチスを演じるこの映画は最高の面白さだ。
ダスティ・ホフマンは「卒業」の後、この主人公と同じ役柄の秀才でお坊ちゃまの
役ばかりオーファーが来ていいかげんうんざりしていた。
そんな時、足が不自由で貧しい詐欺師の役のリコの役の話があった時、
何としてもこの役を演じてみたいと思った。
そして見事な演技力でリコに命を吹き込んだ。
目つきの演技の凄さ。
そしてバスに乗って死んで行く時の半開きの目のリアリティ。
もちろん足を引きずり都会をさまよう人生の敗北者の姿が感動だ。
「パピヨン」「レニー・ブルース」「大統領の陰謀」「マラソンマン」「クレイマー、クレイマー」「トッツィー」など名演技は続く。
真夜中のカーボーイ