「私は、実業家の中に名をつらねながら、大金持ちになるのは悪いと考えている。
人情としては誰でも他人より多く蓄積したいと苦心するのが普通であるが、
この多いということには際限がない。
極端に考えて、もし一国の財産をことごとく一人の所有物としたら、
どういう結果をきたすであろう。
これこそ国家の最大不祥事ではあるまいか。
このように際限のない欲望に向かって欲をたくましくする者が続出するよりも、
むしろ知識ある、よく働く人を多く出して
国家の利益を計るほうが万全の策であると思う。
一人が巨額の財産を築いてもそれが社会万民の利益となるわけでもないし、
ようするに無意義なことになってしまう。
無意義なことに貴重な人間の一生を捧げるというのはばかばかしいかぎりで、
人間と生まれた以上はもう少し有意義に人生を過ごすべきであろう。
実業家として立とうとするならば、自分の学術知識を活用し、
主義に忠実に働いて一生を過ごせば、
そのほうがはるかに価値のある人生である。」
「限りある資産を頼りにするよりも、
限りない資本を活用する心掛けが肝要である。
限りない資本を活用する資格とは何であるか。それは信用である。
信用はそれが大きければ大きいほど、大いなる資本を活用することができる。
世に立ち、大いに活動せんとする人は、資本を造るよりも、
まず信用の厚い人たるべく心掛けなくてはならない。」
渋沢栄一