俺の会社を含めアメリカ以外の国の駐在員事務所は
金曜日の夕方に宅急便を送るために時間との勝負になる。
週末の休み前ぎりぎりに発送すればうまくいけば月曜日の朝には
先方のデスクに届くからだ。
金曜日の締め切りを逃すと到着は水曜日以降となり時間をロスするからだ。
マンハッタンには東京のようにバイク便と言うものがない。代わりに発達して
いるのが自転車便だ。サイクリングスーツに身を包んだ彼らは信号や一方通行を
無視し渋滞でノロノロ進む車の脇をすり抜け依頼人の荷物を30分で届ける。
1970年頃、マンハッタンでプロダクションから現像所へフィルム缶を運ぶために自転車を使ったことがバイシクルメッセンジャー(自転車便)の始まりで現在は約300社で7億ドル市場に成長している。
どんなにインターネットや通信システムが高度化しても、都心のど真ん中でのブツのやりとりが
なくなることはない。依頼主は主に出版社や広告代理店、テレビ局や雑誌社などだ。
運ぶ物はCD-ROM、MO、原稿、商品サンプルなど多岐にわたる。
フェデックスやUPSなどの宅急便の取次ぎ所に運ぶためにも多く使われる。
彼らは日本の様に混んでる歩道は走らず車道を走る。
目的地に到着するとU字ロックを前輪と道路標識にかけてオフィスへと入っていく。
しかしその自転車を離れる僅かの時間の間にそれを盗んでしまう達人もいる。
マンハッタンを歩いていると車輪1個だけにU字ロックをかけている光景を
よく見かける。実に不思議な光景だ。
実はこれは泥棒がスパナで一瞬でロックされて前輪を外し車体と後輪だけを
持ち去った残骸なのだ。
自転車便は早い時には30~40キロの速度で走りまくる。無謀な運転ゆえ
歩行者との激突事故はもうしょっちゅうで中には死亡事故になるケースもざらだ。
その事故は特に金曜日が多いのだ。
直線を真っ直ぐ走る時だと俺のバイクと競争になるパターンも多い。
これが熱くなって実に面白いのだ。ただ走ればバイクが早いのだが自転車は
信号を無視するからいい勝負になるのだ。
いつぞやは60丁目から俺のオフィスのある43丁目まで延々と競争を繰り返した
あげく俺のオフィスの前で停まる。そいつなんと俺に届ける自転車便だったのには
笑った。「ユー・ドーン・ア・グッド・ジョブ」(いい仕事したな)って背中を叩いたら
申し訳なさそうに帰って行った。
この仕事、学生やトライアスロンの選手のいいバイトにもなっていて若者の
憧れの仕事でもあるんだ。
自転車は地下鉄にも持ち込めるのは実に便利だ。
でもミッドタウンにある俺の会社がダウンタウンに荷物を運ぶ場合で超急ぎの場合、
一番最も早い輸送は自転車便よりも社長の俺がバイクで直接運ぶ事なんだ。
特に急いでいる時は運転も荒くなる。時には警察にも捕まる。
背中をポンと叩かれて脇に寄せろと言われる。
しかしアメリカの警官が日本の警官と違うのはすぐにキップ切ったりしない
事だ。あなたの運転がいかに危険であったかを一生懸命説明するのだ。
そしてキップを切らないで放免してくれたりする。
LAのフリーウェイでフライトに間に合わせるために車線変更禁止のところを
強引にレーンチェンジした。
運悪く白バイに見つかった。青い回転灯を回しサイレンは瞬間しか
回さない。パトカーや白バイは必ず相手の後ろにつけ停車する。日本のように前を塞ぐ
形だと撃たれる可能性があるからだ。
見ると普通のポリスではない。なんと俺が長年憧れていた
カルフォルニア・ハイウェイ・パトロール、通称チップスの白。
ベージュの半袖に横にラインが入ったズボン、革のロングブーツ
レイバンのサングラス、車輪に翼がついた有名なマーク。
まさにテレビで見た「ジョン・アンド・パンチ」そのものだった。
事情を話し違反をした理由を説明しティケットを見せた。ラインセンスを見せてくれと
言うので探すとこれがどこに入っているのかなかなか見つからない。
そうすると「もう行っていいよ。いい旅をな」と放免したどころか途中まで早く空港に
つけるように先導してくれたのだ。
なんとかっこいいんだろうって思ってしまった。
バイクの横にはっきり書いてあった。「to protect and serve」(守りそして奉仕する)と。
これ全てのパトカーのドアにも書いてある。
さすがだよ。俺は日本の警察は大嫌いだけどね。
横で聞いてて分かったんだが警察無線で「テン・フォー」(10・4)
ってどんな意味かしってるかい?
「了解」って意味なんだぜ。