パリのセーヌ河沿いの広場でフォアドイブリのアンティーク市が
開かれる。これは全フランス中から業者が田舎の民家を回り仕入れてきたのもを
直接販売する屋外フェアなのだ。
開催日当日の午前1時頃からぞくぞくトレーラーやトラックが集まって来る。
聞いたところによると朝10時頃や昼ごろのこのこ出かけて来ても
掘り出しものは無くなっているらしい。
だから目がきく連中はこの時間から懐中電灯を持って到着したトレーラーの中に入り
まだ積み下ろし前の荷物を探るらしい。それに習ったのだ。
アンティーク美術品と言っても小はピアスやアクセサリーから大は大邸宅の解体した
時の屋根まるごとなんて売っているんだ。
俺が一番好きなのはでっかくて背が高い足のついた本棚だ。
アンティークで一番高いのはルーブル美術館に併設されているアンティーク館だろう。
ガラス貼りの綺麗なショップが並ぶがこれらは何も知らない金持ちの観光客向けの
店だ。
次に安いのはクルニアンクールの蚤の市だ。何百というありとあらゆるアンティークの
店が軒を連ねている。
もう何十回も行ったが決して飽きない魅力がある。確かに安い。
しかしさらに安いのはさっきのフォアドイアブリみたいなイベントのマーケット。
さらにさらに安くしたのであれば自分が直接田舎の民家に買い付けに行くことだ。
気に入った本棚を見つけた。色はほとんど黒で背丈は2.3mはあろうか。
二段で幅は0.7mほど。最下部の短い猫足が見事だ。
家具の猫足の魅力はビクトリア調のイギリス家具には絶対無い魅力だ。
すぐに交渉に入り買う事にした。
フランスで買った本棚はこれで二つ目。朝になるのを待って運送会社に電話をして
ピックアップにこさせる。
すさまじい重さなので大人が4人がかりで運送会社のトラックに運ぶ。
日本の俺の今のマンションでもこんな家具は天井が低すぎて入らない。
だから東京の郊外の貸し倉庫に船便でひと月かけて運ぶのだ。
あといつも見るのが革のボストンバックだ。寅さんのあのバックを想像して
もらえればいい。とにかく味わい深いのだ。
ビトンとかエルメスのタンス位ある箱がある。こんな荷物10個くらい持ってどう旅をするんだと思うがよく考えるとこれは船旅用だ。それも金持ちは使用人を連れて行くからだ。
今時こんなの誰が買うのだろうってものまである。
ちなみに叔父は以前ここで自宅を建てる際の玄関からどかーんと見えるでっかい湾曲した
階段をまるごと買って帰ってそれを付けた。
あとでっかいステンドグラスを玄関吹き抜けと風呂場用に。
でっかいホテルみたいなシャンデリアと窓枠も買った。
庭には女神像と馬に引かれる馬車に乗った戦士像(ほとんど実物大)は
すごい迫力だ。(ちなみにこの像は後に阪神神戸大震災で壊れてしまったのだが)
そして玄関の丸い天井に天井画を美大の学生を雇って描かせた。
「好き」もここまで徹底するとすごい。
ただチグハグなのはフランス風にしているはずなのに窓枠は窓を上に上げて
開けるスタイルなのだ。これはアーリーアメリカンだ。
「風と共に去りぬ」のスカーレットオハラの世界だ。
これには笑えた。
俺があと買うのは第二次大戦中のミリタリー物。イギリスとナチスのヘルメットが
あれば必ず買う。
ドイツ軍のヘルメットは独特の形とカーブが素晴らしいデザインだ。
緑の国防軍のはもう持っていたので黒の親衛隊のヘルメットを探していたが
それも偶然見つけることができた。
いつも見るだけだがジュモーという人形作家の人形は素晴らしい。顔がセラミック(陶器)で
きている。目利きの方法もだいたい頭に入れている。
ガレのランプ。ガレ自身の作品と工房の作品と区別しなければならない。
すんごく高価だがかなりのニセモノが出回っており素人が区別できるのもではない。
日本の美術館にも実はガレのニセモノが展示されているのは日本に行った
事がある美術業者が言っていた。
しかし珍しい事にこの時間は日本人が一人もいない。
バブルの頃、大家まさこが城をまるごと買い、そして城の広間の壁にあった
何百年物のでっかいタペストリーを無理矢理剥がしてオークションにかけたとき
フランスの世論は大家を袋叩きにした。
また静岡の大昭和製紙名誉会長の
斎藤了英(故人)氏が、バブル時ゴッホのガシュ像を120億円強の価格で落札し、話題になったことがあった。
絵画の相場を不必要なほどに引き上げ、しかもそれを私蔵(死蔵)しようとしたと批判された。
その後 彼は、「 自分が死んだらこの絵を棺桶に入れてほしい 」 と発言し、顰蹙を買ったこともありました。あんというあほな男だろう。
ガシュ医師の絵は貧乏なゴッホが御世話になったお礼に書いたものだ。
それをガシュ医師は買い取ったのだ。
ゴッホの生前たった一枚売れた絵がこれだ。
そんな気持ちのこもった温かい絵をなんということをするのだろう。
バブル崩壊後、御多分に漏れず経営危機に陥った大昭和製紙は、この絵を海外のどことも知れぬところへ売却したと言われている。
ショップを見てたまに驚くのはたまに日本の古美術品があることだ。
多い昔海を渡ってきたのだろう。
俺は素晴らしい模様細工の印籠を買った。見ても見ても飽きなかった。
いろんなものを手に入れるにつけこれをかつて持っていたひとはどんな人生をおくったのだろうと想像する。そんな想像もほんとに楽しい。
あー時間を作ってまた行きたいものだ。
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