キャリア(アメリカの大手電話会社)からの請求書(インボイス)の
通話明細が毎月NYオフィスに届く。
CDとその中身をプリントアウトしたダンボール箱一箱だ。
顧客約3千人の通話明細だ。交換機のNY日本間とNYからかけ先までの
かけた時刻、通話分数、相手の国、電話番号が全て記載されている。
一ページ一ページ指でめくっていっても唾を指につけていくと口の中が
枯れてしまうほどだ。笑
顧客からのクレームで通話中に通話が途絶えたというクレームは
記録してあるのでその通話をこのインボイスから探し出す。
また自分でかけた国際電話の通話の記録とインボイスを照らし出して
抜き打ちに検査する。スットプウォッチで受話器を上げてから呼び出し音の鳴ってる
時間、相手と話した時間、全てを詳細に記録するそれを月末に届くインボイスと照合する。
この見難い小さな文字でびっしり書かれた数字と記号を解読するのには骨が折れた。
こんなのぜんぜん俺には向いてない仕事。でもだれにも任せられる仕事ではない。
確かに俺の通話はそれに出ていた。しかし通話時間はインボイスの方が長い。
約5%ほど実際計測したよりも長い事が判明した。
すぐにNYの交換機のデータと照合した。そして驚く事が分かった。
顧客が通話は相手が受話器を上げた信号を完治して通話をスタートさせ
通話が終わって受話器を置いた瞬間その通話終了の信号を持って
大元のキャリアのサーバーは通話を遮断しメモリーに記録する仕組みだ。
ところがキャリアのサーバーが通話終了の信号を感知しないまま顧客が
受話器を置いても回線が切れないまま通話のまま10秒ほどしてやっと
切れているのが判明した。
要は実際話してもいない通話料金を今まで払わされていたことになる。
すぐにエンジニアに指示してキャリアへの交渉材料としてのエビデンス(証拠)
の収集に取り掛かった。
過去に払い過ぎた分まで遡って計算するように特別のプログラムを組ませた。
膨大な量だからだ。
その証拠を持ってキャリアの営業担当、技術者、俺、うちの技術者で交渉を
始めた。キャリア側の通話明細とサーバーの記録との時間の差を指摘した。
キャリアは信用に関わるのかなかなか認めようとはしない。
しかしこちらも普通の門外漢の一般の会社のエンドユーザーでは無い。
こちらもFCC免許を取得している電話会社なのだ。
専門用語で煙にまこうとするのがみえみえだったし日本の電話機の
信号が拾いにくいとかいい訳する。
こちらはそれならFCC(連邦通信委員会)に提訴するのもしょうがない。
日本企業にもレプテーション(評判)は悪くなるだろうなあと話したら
相手の態度は豹変した。いきなり交渉は有利に展開し始めた。
認めさせたのは過去の過払い分はもちろん、3分以下の通話を全て
無料にすること。(内心やったと思った)だったが強気で5分以下の通話を
無料にさせた。
これで逆に損を補って利益が出る計算だ。内心はやったーと思っていたが
顔では「まあしょうがないな」って表情しかださない。
しかしもしこの事にいつまでも気がつかなかったらとんでもない損失が
出ていた。
日本は社会では自分をころす事を徹底的に教育する。
アメリカはとにかく自分を主張する事を教える。
日本人とかく組織や肩書きに弱い。
お上に管理、規制されていないと不安になってしまう。
俺は思うにこれは徳川幕府が300年も続いて徹底的に社会を押さえつけ管理してきた
弊害が現在にも残っているのではないだろうか。
とにかく一人で責任を負いたくないのだ。
石川島播磨などはひとつの稟議書のハンコが50個必要だと言う。
日本人は外国の企業から来訪があってと交渉する時、外国側が二人でも
日本人側はありとあらゆる担当がずらり10人ぐらい揃って出てきたりする。
そのほとんどは一言も口を利かない。
会談中断りもなく会議室を突然出ていったり入ってきたりする。
それがとても奇異にうつると言っていた。
一体だれと交渉すればいいのか分からないのだ。
結局一番英語をしゃべる日本人ばかりに向いてしゃべる事になる。
そして条件がまとまって結論を求めると必ず東京の本社に相談してから
お返事しますという。
おまえら揃いも揃って雁首並べてこの中のだれも決定権を持っていないのか
とあきれたとよく聞いた。まるで伝書鳩みたいな連中だと言っていた。
主張し交渉をするというのが勝っても負けてもとにかくゲームみたいに
楽しかった。
アメリカのビジネスの怖さと楽しさを思い知った事件だった。