一般にアメリカというと車社会という認識だと思うが
ここマンハッタンにそれはあてはまらない。
碁盤の目のように道があるが道路が特別広い訳でもなく
駐車場も少なくてなかなか空いていない。
それでいて駐車違反の取り締まりは厳しい。
特にアメリカ人は違反切符を切られる事を極端に気をつける。
理由は違反があると車の保険料が翌年アップしてしまうからだ。
アメリカの保険は面白くて車の色や車種でも保険料が違ってくる。
白は目立つので事故が少ないから安い。
赤は目立つけど派手な運転をする人が乗るから高い。
スポーツカーのポルシェやフェラーリなどの保険料は数年で
もう一台買える位の保険料がかかる。
それでもうっかりしてレッカー移動されてしまった事が何度かある。
駐車違反は基本的に警察の管轄ではなく交通局になる。
事務所は西のダウンタウンのあたり、ワールドトレードセンターの
近くだ。ここには長い長い行列ができていて順番がくるまで一時間は
かかる。ここで反則金とレッカー料金を払って車を受け取るのだが
半日かかってしまう。これも罰則のうちなのか。
マンハッタンでは普通の交通手段は地下鉄、バス、タクシーのどれかだ。
でも俺はやはりこの街で大好きなバイクに乗りたかった。
バイクショップへ行った。そこの店のバイクは全て日本製だ。
値段は円高のおかげで日本と比べてやや安い位だった。
ホンダの白の大型スクーターにした。購入の手続きをしたあと保険は
別のフロアーで別の保険専門の男が手続きをした。
レンタカーでもそうだが日本人はめんどくさいので「オールコリジョン」という
全てを最大限カバーする保険に入ってしまう事が多いが実はこれが
けっこうな高い値段につく。
保険はやはり吟味して不要な保険は切り捨てるべきだ。
とにかく保険は高い。
車とは違い身体で風を切りながら景色を楽しみながら乗るスクーターはもう
最高に楽しかった。
特にこの街で俺が好きなもの。それは街の音だ。
車が走る音、人の喧騒、工事の音、時折パトカーや救急車の音、排気口から聞こえる地下鉄の音、あちこちでなるクラクション。それらの音が高層のビル街にコダマして響く。
このNY独特の音が俺は大好きだ。
営業活動する上で本来なら目的地まで四角に折れて移動しなければならないのに
スクーターだと斜めに最短距離で効率的に移動できる。
ただ問題は用事が終わって戻ると駐車違反のキップがよくはさんであった事。
そのキップがどんどん山ほどたまっていった。
家にはそれこそ凄い催促状が届く。でも実はこの金額は年利15%位で利子が
膨れ上がっていく。
ただ二輪車の違反は保険料には反映されなかったのでなんとか助かったが
痛い出費だった。
駐車するときも前輪をチェーンでロックはしないとならない。
街でよく見かけるのは自転車のタイヤのついたホイールだけチェーンで繋いである
光景を見た。
「あれー車輪だけチェーンに繋いでどうするんだろう。一輪車に乗ってる人がいるのかな」
と思った。しかしそれは前輪をはずされ本体を盗まれた残骸だったのだ。
俺がよくやられたのは両側のミラーと荷紐などをしょっちゅう盗まれた事だ。
季節は冬だけは辛い。しかし乗り続けた。風はまるで針が頬に刺さるように痛い。
俺の他、誰ひとりとして二輪車など乗っている人はいない。
信号待ちしていても車のドライバーが話しかけてくる。
両手を拡げて「お前は寒さを感じたりすることがあるのかい」って呆れている。
「コールド」よりも寒い「チリー」という表現をここではよく使っている。
NYの光景で道路から蒸気が噴出している景色を見た事があると思うが
信号待ちの時、この蒸気のところに停車して身体を浸すとこの上なく
温かいんだ。
凍えた手もひと時温められる。
NYは一通が多いので通勤の行きと帰りは違うルートになる。
朝のルートの道路の上を大きなロープウェイがルーズベルト島に
向かって横切って行く景色が実に雄大なんだ。
いつか彼女とグレゴリーペックとアウドリーヘップバーンのように二人乗りして
走ってみたいなと思った。