パリ在住時、一度50年に一度と言うマイナス30度の大寒波が来た。
雪は膝ぐらいまで積もり、どこもかしこも30cm位のツララが下がっている。
都市機能は完全マヒ。車、バス、地下鉄、鉄道、飛行機、全てが停まってしまった。
俺の部屋はチェルリー公園の近くだったので公園へ行ってみた。
遠くに雪の中にうっすら見えるエッフェル塔をのぞみながら見回してみても
いつもはっきり見えるエトワール(凱旋門)がかろうじて見える。
俺が住みたいのは16区、17区、20区あたりなんだ。
グランパレの屋根の彫刻は見事だしアレキサンダーⅢ橋も世界一美しいのでは
ないだろうか。
コンコルド広場へ行ってみるとなんとなんと犬ソリが走っている。
全くふざけている。でもどうしてソリがパリにあるのだろうか。
10匹ほどのシベリアンハスキーが引いているのだがどうしてここに
いるのだ。絵になりすぎていておかしい。
鉛色の古都パリにまた雪景色は眩しいほどの美しさだ。
この寒波で全ての施設は休みかと思っていた。
公園からふとルーブル美術館の入口を覗いてみたらなんと営業しているではないか!
これはラッキーとすぐに入る事にした。確か年間パスポートを持っていた。
中に入って見た。なんと客は俺一人。他にただの一人もいない。
天下のルーブル美術館を俺個人が貸切で独占。
こんな贅沢は後にも先にも無いだろう。
いつもは日光が差し込むであろう天窓は雪が覆っているためその日は特に
光線が柔らかい。
入口の「地獄の天使」から始まり「ミロのビーナス」数々のギリシャ彫刻、「モナリザ」
ダビンチ、ラファエロ、カルバッチオ、ルーベンス、フェメール・・・・
天井まで届く作品を時には中央のベンチで寝転がりながら鑑賞する。
まさに至福の時間だった。
ルネサンス以前のこのタッチの宗教画は何かを訴えてくる。
実に神々しい気持ちになれる。
しかしルーブルはそのほとんどがナポレオンがヨーローパを支配して
持ち帰ったものばかりだ。イタリア、ギリシャ、スペイン、オランダ、イギリス
等。大英博物館も同じだよね。奪い取った泥棒市みたいなものだ。
でもこの美しさと感動にそんな事は関係などない。
それをルーブルを独占できたあの日を俺は生涯忘れない。