住んでたマンションはアッパーイースト。
1LDKでリビングはけっこうな広さだ。
クローゼットも4畳位あるんだ。
ドアマンも居てセキュリティーは問題ない。
日当たりはなかなかだ。家具付きだったが寝具は自分で揃える。
最初枕をブルーミングデールというデパートに買いに行ったが
恐ろしく高い。
ふと見るとディスカウントショップで3っつで$10の枕セットが
あってすぐにそれを買って帰った。
でもカバーつけないで使っていたら数日でだんだん破れて来て
なんと中の羽根が少しずつでてきた。
もともとなかなか掃除をしなかったので広い寝室も部屋に
あぜ道のようなものができてしまった。
ドアからベッド、ベッドからタンス、タンスからクローゼット。
それぞれが道になってる。歩くと枕から落ちた羽根が舞い上がるようになった。
これはまずいと思いはじめて掃除機を買った。
面白いのは毎朝7時なると向かいのマンションの部屋のバルコニーから
女性が現れてクラシックの声楽の唄を唄うんだ。
この美しい歌声には誰も文句は言わない。
レンジが4つあってかなりのシステムキッチンだが使うのはオーブンで
冷凍のテレビセット(ひとつのプレートにいくつもの料理が少しずつ入ってる機内食みたい冷凍もの)をオーブンで30分焼いたりする。
日本のシンクは低くてちょっと洗いものをしただけでもかがんでいるので腰が痛くなるが
アメリカはシンクやキッチン全体が高くて長身の俺には本当に楽だ。
ついに我慢できなくなってチャイナタウンへ行って電気釜を買ってきた。
米の炊き方が分からなくて電話で聞いたっけな。
炊き上がったら直接釜からしゃもじでご飯だけ食べた。
それでもほんとにうまかった。
ミッドタウンには創業40年という「カタギリ」という小さな日本食良品店がある。
ここでお好み焼粉だけを買ってきてそれを水でといてめんどくさいから具無しで焼くんだ。
それをソースつけて食べる。
とにかくうまかったなあ。料理らしきはそれだけかな。
とにかくでかいGE製の冷蔵庫はいつも飲み物だけであとは
カラッポ。
テレビは最初安いからと韓国製を買ったが一日めでバッとフラッシュしたと思ったら
見えなくなって終わり。クレームして日本製に変えてもらった。
やはり日本製の信頼は高い。
ケーブルテレビも最新の映画がすぐに放映されるのですぐに契約した。
でもあまりにも忙しくて見てる暇がなくやめてしまった。
洗濯は月1回、ダンボール箱に二箱位たまる。
ワイシャツとパンツと靴下がやたら増える。
しかし忙しくなるとほとんど外食ばかりになる。
近所のダイナー(小さな食堂)は朝までやってる。
カウンターで一人で食べるのだが深夜に仕事の帰りに
食べると何かとっても寂しい気持ちになる。
ある冬の凍りつくような寒い日、仕事がうまくいかない日々だった。
頑張っても頑張っても空回りだった。
そんな時ダイナーに寄ってパンとオニオンスープを食べていた時
店内の有線音楽で「茶色の小瓶」が聞こえた。
楽しいメロディなのだが悲しげでもあるこの曲を
聞いた途端、涙がボタボタスープの皿に落ちた。
涙だけだ。
「俺はこんなところで何をやっているのだろう」って思った。
今まで強がってた自分の中で何か緊張の糸がプツンと
切れたんだ。
「アーユー・オーライ?」ってカウンターの中のマスターが心配してくれる。
俺はハンカチはいつも持ってないからスーツの袖で頬を拭って
またしゃっきりした自分に無理矢理戻った。
この街はエキサイティングにもさせてくれるけど突然寂しくもさせてくれるぜ。
暗い部屋に帰っても灯りもつけないで一人感慨深く聞いてるのが
このCD。このブレードランナーのサックスは神がかりに美しい。
ブレード・ランナー~ザ・ベ...