ビジネスではあらゆるトラブルを想定しなければならない。
この事業での想定できるトラブルは交換機サーバーの運用、
キャリア(電話会社)の回線通話トラブル、通話明細と請求内容の
メモリークラッシュ、クレジットカード銀行決済問題など多くあるが、
NYの地元のローカルの電話会社(NTTにあたる)で顧客一人一人に
対し電話番号を個別に割り当てる必要があるため電話番号を
支給してもらう必要があるのだ。
それもすでに使用電話番号は1万以上に上っておりさらに新規顧客分が
毎月300以上必要だった。
NYはエリアコードが212なので、212-123-4567とかの電話番号の事だ。
ところがその番号の支給が滞ってきたのだ。
以前みたいに注文しただけもらえなくなってきた。
あまりにも俺が多くの番号を独占して使用しているので
それが社内で問題になり支給が間引きされるようになってしまった。
この番号は一番号に付き僅かな基本料金は取られるが
全て国際電話回線でしか使用しないため地元のローカル電話局は
メリットがないのである。
番号は電話会社は新規で発行もするし古い番号で1年解約されてから1年寝かせて
から支給するので永遠に在庫があるわけではなのだ。
オーダーをかけても30日や45日待たされるようになってきた。
ところが日本では毎日どんどん新規顧客が増えていて契約が取れているのに
顧客に振り分ける番号がないためサービスがスタートできないのだ。
これは猛烈なクレームとなって跳ね返ってきた。
宣伝は毎日新聞に載せる長期契約になっている。
これにはまた大変な問題だった。
同業者のヒロさんからも同様な問題があると連絡があった。
頭をめぐらせた。おかしい。
ふとこの前得た情報が頭をめぐった。
我々のこのアメリカの電話回線を使用した国際電話サービスを
KDDがあらゆる手を使って抹殺しようと本格的に動いてきたという情報を
得ていた。
そして先週は郵政省に対し、KDD、IDC、ITJ、ら3社が連盟で
我々の国際電話サービスの差し止めを正式に申請したのだ。
これはマスコミで大きなニュースになった。
日本の知り合いの新聞記者からゲラ刷りの段階で電話が入った。
今回の番号供給の問題もこの事件と関係あるのではないだろうかと
初めて気がついた。たしかに辻褄は合う。
新しい番号がこない事にはビジネスが頭打ちなのだ。
日本のKDDたちがアメリカのローカル電話局に圧力をかけて
俺達を間接的に妨害してきている疑いがあるのだ。
「くっそーやりやがったな」と思った。
俺は考えた。
すぐにFCC(連邦通信委員会)発行のアメリカ通信法の
読み直しを始めた。俺の会社はFCCの第一種免許取得者だが免許取得時
目は通してはいたが凄まじい分量なので免許申請のポイントしか読んだ事は
なかった。
それらをずっと目を通していった。するとあった。通信の自由の保障というところが
あって「通信をしようとする自由を何人とも妨げられない。通信事業者は通信の設備を
何人にも平等に使用させる義務がある」とある。
すぐにキャリア(国際電話会社)の営業に連絡を取った。そして言った。
ローカル局の連中の連中が番号支給をサボっている事、
このままだとビジネスは頭打ちになる事、
君ら営業のコミッションも伸びない事、
彼らは憤慨した。予想どおりだ。
そこで切り出した。FCCに告発する下書きを文書化したい。
その文書を持ってローカル局と交渉したいので連盟で
名を連ねて欲しい。
彼らに拒否する理由はなかった。
俺はすぐに弁護士に面会を申し込み事情を話し下書きを作成してもらった。
3社の支社長のサインをもらい。
ローカル局にアポを取って乗り込んだ。
番号支給状況にコンプレイン(苦情)を言った。
設備の問題で割り当てが遅れていると繰り返す。
もしかして最近日本のKDDからの連絡はありますかと聞いたら
さっと一瞬表情が変わり眉が動いた風にみえた。
否定はしているが俺は絶対KDDがバックにいると確信した。
俺が鞄から用意した文書を取り出し目の前の3人にコピーを配った。
マスコミにプレスキットで配る準備も整った事も告げた。
連中の顔がみるみる険しくなった。
ある意味これは合法的な「脅迫」である。やや可愛そうな気もするが
ビジネスに情けはかけていられない。
優しさで遠慮していて俺が事業を潰しても誰も一緒に泣いてくれないし
慰めてももらえない。
合法ぎりぎりの脅しをかける。
もし相手が戦うと言われれば両者が委員会で喚問されて質問される。
そんな事をやってる間にビジネスは息詰まりだ。
でも彼らに戦意が無くなっていくのが表情でわかった。
翌日すぐに500本の空き電話番号が届いた旨エンジニアから
連絡が入った。
深夜に東京に電話して新規の番号発行を指示し全てを終えた。
またひとつ問題を乗り越えた。
社長をやっていると問題が発生すると
「創業社長という職業はこんなにも苦しいものか」と悲観するが
一旦自分の考えや運や見えない力のおかげで窮地を脱した時、
「こんな快感を味わえる社長はやっぱり最高だ」って思うぜ。
巨人KDDをここまで本気で怒らせたのは事業者冥利だった。
最高の気分だった。
問題が解決して急に腹が空いてきた。風呂に入って泥のように
眠りたかった。
オフィスの外にでたらすごい雪だった。
またダイナーか。日本の御惣菜が食べたいなあ。泣