友人のKは小さな貿易の会社を経営している。
会社は小さいがVHSビデオの東南アジア一帯のシェアを
ほぼ独占していると言っていいぐらいだ。
以前はベータマックス一辺倒だったのをVHSに引っくり返した
男だ。
ある日、東京に滞在しているときKから電話が入った。
アメリカからKを訪ねて来たその人物はKに投資の話を持ちかけてきた。
一見タイ人風だ。英語を話す。
ハリウッドの映画に投資しないかという話だった。
日本ではまだ無いがアメリカでは映画の制作費を債権で投資家を募るのだ。
映画の投資システムはこなっている。
映画のタイトル、監督、主演、制作、脚本の内容、制作費の内訳、
キャスト、スタッフのギャラ
全米と世界の配給予定、ビデオ販売収益、テレビ放映権、などの
収支予想が数字を並べ詳しく書いてある。
投資家はそれらを見て債権を買うのだ。1枚$1000位からが一般的だ。
その映画がヒットして利益を出したらその利益を投資家に配当するという
仕組みだ。
ヒットが確実に見込める映画は強気で配当率もあまり高くない。
スピルバーグやジェームスキャメロンクラスだと配当は良くない。
逆に無名キャストや監督で大ヒットを飛ばすと配当は凄まじく高い。
要は競馬の本命と穴馬の差なんだ。
かつてジェリー・シャーロックと言うハリウッドの有名プロデューサーを
従兄弟が連れて来た事があった。
彼は「オリエント殺人事件」やショーンコネリー主演の、
「ダイハード」の監督ジョンマクティアナンの「レッドオクトバーを追え」の
プロデューサーとして有名だ。
彼の話は日本にもこのハリウッドの映画債権を販売してみないかという
ものだった。話はとても興味があったが人材事業がてんてこまいで
手がつけられなかった。いきさつは俺にはあった。
Kはもちろんこんなシステムがアメリカにある事さえ知らなかった。
Kを訪ねたアメリカ人の彼と同伴の女性
の話を俺は直接聞く事になった。
主演はピーターフォンダ。ベトナム戦争で捕虜になったアメリカ兵を
捕虜収容所から救出する話だ。
途中道先案内人の現地の女性と力を併せながら敵と戦い
仲間を救い出すアクション物。
脚本もコンテも実によく出来ている。収支決算予定表、利益分配表もできて
いる。確かに読んでいてストーリーは引き込まれるように面白い。
書類は完璧に整っている。
投資として文句のつけようがない案件だった。
Kは投資を決め2000万円をコミットメントした。
しかし目の前の彼らの人間の印象が俺の頭の警報のボタンをわずかに押すのだ。
人間の中身がどこか軽いのだ。そしてどこかそわそわしている。
そして彼らはそのお金を現在ロケに行っているフィリピンの現場に持って行きたいので
なるべく銀行振り出しの小切手で欲しいと言った。
横でずっと聞いて俺はこれを聞いて初めて口を開いた。
「Kさん、この話おかしい。NYで調べさせるから一日待ってくれ。」といった。
日本語だから相手はわかっていなかった。
Kはなかなか言う事を聞かなかったが無理矢理納得させた。
彼らには明らかに失望の表情があった。
とりあえずその日は保留にして明日彼らには再訪させる事にした。
俺はKのオフィスの電話をかりてすぐにNYの部下に電話を入れた。
名刺の名前、住所、会社、この映画配給会社の全てを調べさせた。
名刺の住所まで訪ねさせた。
6時間後報告があった。会社の住所の場所に会社は存在していて、
その人物は確かにいた。しかし今現在、NYのオフィスにいたのだ。
この映画会社に問い合わせてもそんな映画の企画は存在しない。
この東京にいる奴は偽者なのだ。
この投資話は詐欺だったのだ。
Kの驚きようははんぱじゃなかった。
翌日の約束の時間、てぐすね引いて二人を待った。
現れた二人に俺が「あんたKをはめようとしただろう。この話フェイクだろう。
立派な犯罪だぜ。」って言った。
彼らのお互いを見合い表情が青ざめた。
俺は彼の肩をでかくパンパン叩いてスーツの襟を掴んで釣り上げた。
女性は震えている。
Kにどうする?って聞いたらもういいよ。被害は無かったんだ。
帰してやってくれと言った。
俺はそのままエレベーターまで連れて行き開いたエレベーターの中に二人とも放り込んだ。
Kは危なかった。危うく詐欺にひっかかる所だった。
とにかく外人が日本へ持ってくる投資話は中身が凝っていて素人では
判別がつかない。
今回は内容が凝っているのだがNY側に受け渡しまでにチェックなど無いだろう
と踏んだのだろう。金だけ受け取ってドロンするつもりだったのだ。
俺は国際詐欺のありとあらゆる手口を研究するのが好きなのだが
今回のはまだ稚拙だった。
お金の話が出てきてうまい話だったら必ずガードを上げることだ。
俺もいたい授業料を払ってやっと見破れるようになったのだ。
世の中、危ない罠が口を開けてあなたが上を通るのを待っているんだ。
もしうまい話があるならば一度俺に聞いてみてくれな。泣く前に。